約 5,162,020 件
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/650.html
back / next 零話 『蛇は林檎を投げ落とす』 「この宇宙の何処かにいる(ry」 お決まりの召喚呪文とお決まりの爆発。 “魔法が一切使えない魔法使い”のゼロとさげずまれている『ゼロのルイズ』ことルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールが顔をすすだらけにしながら唱えたその呪文は、ミスタ・コルベールに与えられた最後のチャンスだった。 どうせ何もねーだろと生徒たちが飽き始めているなか、爆発で怒った煙がゆっくりと晴れていく。 煙の中には、唐草模様の書かれた毒物にしか見えない大きな実が、一つだけ転がっていた。 「さすがゼロのルイズ!」 「珍しいのは確かだな!」 ルイズは涙をこらえるのに必死だった。 ドラゴンやグリフォンのような幻獣とまで行かなくても犬やネコでも良かった。それこそ蛙や蛇でも。 しかし彼女に引き当てられたのは虫ですらなく、動くことのない植物だった。 コルベールに急かされその実にコントラクト・サーヴァントを行う。 ルーンの発生を確認して、コルベールは全員を下がらせた。 唐草模様に邪魔をされたのと対象が木の実だったこともあり、コルベールはそのルーンを深く調べはしなかった。 ただ一人とぼとぼと、ルイズは実を抱えて自室に戻った。 その日ルイズは初めて授業をサボった。 夜、ルイズはふと目を覚ました。 泣きつかれたまま眠った涙の跡の残る顔で、ルイズは眼前の木の実をにらみつけた。 ふつふつと怒りがこみ上げ、それをぶつけるようにルイズは実にかぶりついた。 毒かも知れない、という思考がないわけではなかった。 それでもルイズは実をかじった。死ぬ可能性を理解しながらもそれにかぶりつく。 死んだほうが楽かもしれない、とさげずまれ続けた17年を振り返り、涙を流しながら実をほおばった。まずい。 2/3ほどを食らったところで残りを床に放り投げ、また泣きながら眠った。 ルイズの額にぼんやりとルーンが浮かび上がる。 それは虚無の使い魔の証。 実に刻まれ、食らうことでルイズに移された刻印。 それは神の頭脳。 それは神の本。 その名を『ミョズニトニルン』 その実の名は『悪魔の実』 back / next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/704.html
back / next 三話 『アダムは林檎にかぶりつく』 本日は虚無の曜日、ざくざくとシエスタが下草を掻き分け、その後ろをルイズがカゴを下げてついていく。 秘薬を作るための薬草を取るために、二人は学園の隣にある森の中を分け入っていた。 時折使い魔に遭遇するのは同じように秘薬の材料探しだろう。 シエスタはルイズに言われるまま、手に持った剣でざくざくと下草を刈る。 「頼むよ嬢ちゃん、頼むから戦いに使ってくれ。草刈がまの代わりはもういやだぁ!」 「メイドに戦いをさせる気? このボロ剣」 その手に握られたデルフリンガーが悲鳴を上げた。 時間は少しさかのぼる。 勉強と食事と風呂以外は花壇にいるか部屋にいるかしているプチ引きこもり状態だったルイズを外に引っぱり出したのはキュルケだった。 「せっかくの休日に外に行かないなんて不健康よ! さあ、町に行きましょう!」 そういった事情で、シエスタを引き連れたルイズはタバサを連れてきたキュルケと共に馬車に揺られにいた。 キュルケの危惧していることはもう一つあった。それはほかならぬシエスタである。 かいがいしすぎるのだ。服を着せるのも食事を用意するのも顔を洗うのも全部自分からしている。 今日出かける際の荷物や服装の用意も彼女が自主的に行っていた。 風呂で体まで洗っているという話を聞いて、流石にルイズを斜めにかしいだ目で見てしまったものだ。 本人は気にしていないのがさらに問題ではなかろうか? ていうか女同士は…… 思考の海にもぐってしまったキュルケに眉をかしげながら、ルイズは懐から財布を取り出す。 その財布の開閉部分に、彼女は自分の髪の毛を数本結びつけた。 大通りでの買い物は非常に実りのあるものだった。 何よりシエスタがこれ以上ないくらい役に立ったのである。 貴族の坊ちゃん嬢ちゃんに吹っかけようとする商人がいやらしい笑みを浮かべるも、常識を知るシエスタがそれをすべて看破してしまうからだ。 ルイズはキュルケたちと数人だけで買い物をしたときの出費額を思いだし、貴族と平民の金銭感覚の違いと己の感覚の疎さに少しだけへこんだ。 シエスタの分も含むいくつかの服を積み上げ懐に手を入れる。財布がない。 「ちょっとルイズ、まさかすられたの?」 「みたいね」 「あのお客様、いくら貴族様でもこれ以上はまかりませんよ?」 「立て替えましょうか?」 「問題ないわ」 ルイズはパチンと指を鳴らした。 ドカン、と大きな音が響き、同時に男の悲鳴が上がる。 ルイズは優雅な動作でその現場へと向かった。 そこには手のひらを焦がされてうずくまる男と口の部分が壊れたルイズの財布。 財布に仕掛けられた髪の毛を爆破した痕跡だった。 うめく男を徹底的に無視してルイズは自分の財布を拾い上げる。 「ルイズ!」 キュルケの警告に反応するまもなく、後ろから男がルイズを羽交い絞めにする。 「この小娘が!」 「ルイズ様!」 野次馬が悲鳴を上げる中、キュルケとタバサは慎重に杖を構える。 だがそんな行為もすべて意味なく終わることになる。 「離しなさい。そのほうがあなたのためだと思うけど」 「黙れ! いいから黙って「ていうか臭いのよあんた」へ?」 ルイズに杖を向けていた男が轟音を立てて吹き飛んだ。 ルイズに接触していた部分がシューシュー煙を上げている。 パンパンとほこりを払うルイズにシエスタが慌てた様子で駆け寄っていく。 「……タバサ、今のって」 「魔法じゃない」 「そうよねぇ。魔力を感じなかったし」 服装を整えながらルイズは歩み寄る。 「さあ、精算しにいきましょう」 レストランでの食事中、ルイズは手に持った球体をいじりながら問いかけた。 球体の仲にはコンパスのようなものが入っていて、常に一方向を指している。 「ねえシエスタ、マジックアイテムを売ってる店はないかしら」 「マジックアイテムですか? 薬草とかを売ってる元メイジって人のお店なら知ってますよ。あとその隣に武器屋があります」 「そう。じゃあ食事が終わったらそこへ行きましょう」 「ねえルイズ、さっきからいじってるけどそれ何?」 それは手の中の球体。 「マジックアイテム扱いになる道具ね。“エターナルポース”。特定の方向を指すみたいだけどどこを指してるかまではわからないわ」 「下、よね?」 「方向は海底」 「案外昔の遺跡とかかもね」 ルイズはエターナルポースをしまうとナプキンで口をぬぐい立ち上がる。 「さ、その店へ行きましょう」 店の中は混沌としていた。 元メイジという肩書きは本当らしく、ミョズニトニルンの力で確認しても並べられている品はそのほとんどが本物だった。 キュルケとシエスタは宝石を、タバサは薬草を見ている。 そんな中ルイズは一人で部屋の隅にうずたかく積まれた残骸をあさっていた。 取り出したのは巻貝の貝殻。大小さまざまな貝殻。かなり頑丈なのか一部壊れているもののほとんどが無傷だった。 「おばあさん、ここにつんであるのはおいくら?」 「そこのは何でも1ドニエだよ。ほとんどガラクタだしお宝があってもあたしにはわからないからね」 「そう、だったらここにある貝殻全部いただくわ」 「へ?」 「他にも手に入ったら連絡くださらない?」 ルイズは貝殻を大量に購入し、その店を後にした。 「あのルイズ様、軽いものですし荷物もちはいいのですけど、これは一体?」 「帰ってから教えてあげるわ。それより隣の武器屋に行ってみましょ。案外掘り出し物があるかも」 戸を開けると暇そうな男、ルイズたちを見ると営業スマイルともみ手で出迎えた。 「これはこれは奥様、武器屋にどんな御用で?」 「武器屋でワインを買うものはいないわ」 「それはごもっともで」 もみ手する店主と話し込んでいるにはキュルケのみ。タバサは興味がなさそうに、ルイズは周りの武器を触るが、魔法のかかっているものはほとんどない。あってもドットクラスの固定ばかり。 「あのルイズ様、私流石に武器まではわかりませんよ?」 「大丈夫よ、気にしないで」 ふと、適当にすえられた剣が目に留まる。装飾はまるでなく、ボロボロの剣。 「ねえルイズ、これなんてどお?」 剣を手に取ろうとしたところをキュルケにさえぎられ、振り返るとキュルケが手にしているのはゴージャスな剣。 「これは?」 「へえ、それははるかゲルマニアの錬金術師、シュペー卿により鍛えられた業物でごぜえます」 「ふうん……」 その剣を手に取るが、読み取れる情報は錬金により作られたというそれだけのこと。 「業物? これが?」 「もちろんでごぜえます。いかに貴族様といえどもあたしの店へのいちゃもんは……」 「ふんっ!」 ボンッ、と握った右手の中で破砕音、その業物とやらはルイズの手の中で鞘ごとボッキリへしおれた。 「……なまくら?」 「鞘ごと半分になっちゃいましたねぇ」 「そそそそんなはずは!」 「多分仕入れるときにだまされたんじゃない?」 後ろの問答を意識から外し、ルイズは先ほどのボロ剣を手に取った。 情報を解析しようと意識を集中した瞬間、頭に会話が割り込んだ。 (へえ、おめえ使い手のご同輩じゃねえか) (……インテリジェンス・ソード!? ルーンを介して会話してるのかしら?) (おうよ! 俺様はデルフリンガーよ) (へええ、すごいじゃないあなた。インテリジェンス・ソードってだけでもすごいのに魔法吸収能力なんて) (? 何でえそりゃ) (記憶にロックでもかかってるのかしら? まあいわ) 「そんなのどうでもいいからこれはおいくら?」 サークレットの下の光るルーンを隠しながら、ルイズはデルフリンガーを店主に差し出した。 こうしてデルフリンガーは引き取られた。 で、冒頭に戻るわけである。 「なあ娘っこ、頼むよ、トロルとかオーガとかならいくらでも切るからよ、草刈がまの代わりはホント勘弁して」 「ごちゃごちゃ言わないの。そのうち振るうことになるわよ」 「ルルルルイズ様、私トロルやオークとなんて!」 「心配しなくていいの。あたしが何とかするもの」 「ちょい待てや娘っこ! なら俺がやることなんてないじゃねねえか!」 「……シエスタ、このベッコウアメっていうのおいしいわね、程よい甘さで」 「そうでしょう! おじいちゃんの故郷のキャンディーなんです!」 「流したな!? 流しやがったなコンチクショウ!」 森の奥に開けたところがあり、大きな湖が存在している。 かつては水の精霊がいたとされる場所だが、周囲の森に凶悪な亜人が出現するようになって以来その姿は失われていた。 今では森に散策に来た使い魔たちが一休みをする場所になっていた。 だが様子がおかしい。 「ルルルイズ様、あれってオーク鬼じゃ!」 「……せっかくの憩いの場で!」 ギーシュの使い魔のヴェルダンデが下から足を引っ張りキュルケのフレイムが炎のブレスを吐きかける。 だが皮膚が分厚いのか純粋に頑丈なのかほとんど利いていないようだった。 「フレイム、のいて!」 声に反応して横に飛ぶフレイムの後ろから、ルイズは口に含んでいたベッコウアメをオーク鬼に向かって噴き出した。 思わずそれを口で受け取ってしまうオーク鬼。すぐその甘さに顔をゆがめる。 「最期のデザートなんだからしっかり味わいなさい!」 飴が、正確には飴に付着したルイズの唾液が轟音を上げて爆発した。 中からの爆発で脳をやられ血と歯の破片を撒き散らしながらふらつくオーク鬼が最後に見たのは、デルフリンガーを大上段に振りかぶるシエスタの姿だった。 「よいしょー!」 シエスタは実は結構な筋力を有している。 田舎の出で家事を手伝い学園でも働き続けるシエスタの体は、日々の洗濯掃除やまき割などで少なくとも握力や背筋力に関しては一般人を上回っている。 撒き割りの要領で振り下ろされたデルフリンガーは、魔剣の名に恥じることのない切れ味でオーク鬼を左右に切りさばいた。 「はっはー! これよこれこれ! これこそ俺の真骨頂!」 「あんたホントに名剣なのね。口だけだと思ってたのに」 「それ結構ひどくない!?」 オーク鬼の死体はヴェルダンデが地中に引きずり込んで始末された。 ルイズはシエスタに膝枕をされている。 気分が良かったせいか泳げなくなっていたことを忘れて飛び込んでしまったからだ。 ゆっくりと寝息を立てるルイズを見下ろしながら、シエスタは静かな笑みを浮かべていた。 桃色の髪をなでながら、その顔の水をぬぐう。濡れた艶やかな唇。 シエスタはそっと、己のそれを重ねた。 少女の左手の皮膚が、かすかにチリリとこげた。 back / next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/701.html
back / next 二話 『蛇は林檎をアダムに勧める』 ルイズはコルベールの前にギーシュと共に並ばされていた。 呼ばれた理由は先日の決闘である。 貴族間での決闘はここトリステインでは禁止されており、学生同士の決闘など言わずもがな、であった。 「では二人は三日間の謹慎処分とする。寮から出ないように。あとこれ課題」 どっさりと課題を渡され、二人そろってげんなりとする。 一礼してそろって部屋から退出した。 「あ~、んん、ん、ミス・ヴァリエール?」 「何かしら?」 かしこまるギーシュに疑問符を浮かべ、ルイズは問いかける。 「昨日は本当に申し訳なかった、いや本当に」 「へえ、ちゃんと謝ることはできるわけだ」 「……いくらなんでもそれは悲しいよ」 「冗談よ。昨日のことなら気にしてないわ。勝ったし」 「ぐっ」 痛いところをつかれ、ギーシュは思わずうめく。 「それよりもギーシュ? グラモン家の男なら他にすることがあるんじゃない?」 「ああそうだね、忘れるところだったよ」 そう言うと早足で自室へ向かう。 「三人のレディに謝らなくては、ね」 朝食を取りに食堂へ。うれしそうに近寄ってくるシエスタとその少し向こうでぼろぼろになっているギーシュが目に留まる。 ギーシュのボロボロっぷりはすごかった。その姿まさにフルボッコ。 わざわざ朝食をよそいに来たシエスタに、ギーシュについてを問いかけた。 「ああ、あれですか。あれはさっきですねぇ」 要約すれば以下の通りである。 ギーシュケティに謝罪→ビンタ→影からジロリ モンモランシーに謝罪→ビンタ→復縁 シエスタに謝罪→お詫びに昼食を僕の部屋で→モンモランシーの素敵な笑顔→フルボッコ 「あれはもう、一生治らないわね」 「ですねぇ」 本日は授業がない。虚無の曜日だからだ。 「だから今日から三日謹慎ってわけね、あーのコッパゲがぁ」 「まあまあルイズ様、それはそっちですよ」 ルイズは課題をさっさと終わらせ、悪魔の実を植えた場所に来ていた。 ルイズはいろいろ抜けているところがあるが、基本的に優秀である。 実技ができないということは、実技以外をする余裕が他のものよりも多いということであるのだから。 悪魔の実は芽を出していた。既に子葉が開いている。成長が早い。 「ルイズ様、普通植物ってこんなに早く芽を出したりしませんよね?」 「これは特別よ。それにこの方法以外で芽を出すことはないわ。専用の肥料を与えなかったら枯れもせずにずっとこのまま」 「それは植物じゃないんじゃぁ……」 「ええ、どうも一種の寄生生物らしいのよね。触っちゃ駄目よ? 生き物だけじゃなくて物にも寄生できるから」 ルイズは手に持った小さなじょうろから赤い色の液体を注いでいる。あれがその肥料だろうか? 「あのルイズ様、つかぬ事を伺いますけど、それ原料は何ですか?」 シエスタがそれをたずねたのは、その肥料を与えた瞬間メキメキ音をたてて芽が伸びたから。 驚いた様子のシエスタに苦笑をこぼし、ルイズは左手をまくる。 そこには秘薬で治したのだろう、何本もの手首の傷。 「能力者の血液よ」 コルベールは優秀なメイジである。そして同時に優秀な科学者でもあるのだ。 何せ魔法があるこの世界で必要などないはずの内燃機関の基本理念を自作してしまうのだから。 その頭脳は図抜けて秀でているといっていいだろう。 ところで魔法の必要ない技術は平民に力を与えるものだと思うのだが、そこんところはどうなんだろう? コルベールはルイズに頼まれた依頼を無料で受けていた。 それは彼の知的好奇心を満たすものであったから。 「ミスタ・コルベール、燃料をくべるだけで延々と雷を吐き続ける装置を作ることは可能ですか?」 己の作っている石炭を利用した内燃機関、その目的と一致するものをただの生徒に過ぎないルイズに問われ、コルベールは小さな感動を思えていた。 「理論上は可能かな。燃料をくべて駆動し続ける装置というのは既に想定としてあるのだけれど……」 「何か問題が?」 「雷のほうだね。これを発生させる原理がわからないんだ」 「なるほど……ああ、これ先日の課題です」 トリステインに足りないものは好奇心である。 貴族主義を貫くこの国にとって、貴族は絶対であり平民はその付属物でしかない。 だから技術力が進歩しない。 それとは違い、ゲルマニアという国家は身分の差をあまり重視しない。 優秀であれば昇進させる、という実に効率のいいシステムをとっている。 政治など魔法に関係ない力を必要とする職に、平民も等しく就いている。 電気発生装置というものが発明されれば、それはまさに人類の進化といえるのだろう。 ルイズは考える、雷とはそもそも何であるのか、それをコルベールと相談する。 ルイズは初め光と考えていた。だがコルベールの話でその意見が変わる。 「雷といえば友人が一度打たれたことがあってね、すごい火傷を負っていたよ。よく生きていたものだ」 「そういえばそのままなくなられる方が多いですね」 「うん、そうだね。彼はひどくしびれて動けなくなったと言ってたなぁ」 「しびれた?」 火傷なら光とて負わすことはできるだろう。だがしびれるとは? ルイズはふと、長時間触っていなかったドアノブに触れたときを思い出した。 「あの、ミスタ・コルベール、つたない意見かもしれませんが雷とはもしや電気では?」 「……なんだって?」 「いえ、自然現象でしびれるといえば静電気くらいしか思いつかなくて……」 「電気? いや待てよ、そういえば『ライトニング・クラウド』も直撃すればひどい火傷を起こす! そうか、電気か!」 我天啓を得たり! とばかりに飛び上がるコルベール。 「そうです、電気ですよ! それなら何とかなるかもしれません!」 「本当ですか!?」 「ええ! 規模は小さいですがそれでも?」 コルベールはその日から数日、自分の研究室にこもり続けた。 周りが心配しだしたころ、彼はげっそりやせ細った姿で食堂に顔を出した。 「ミス・ヴァリエール! できましたよ! これはもう革命というしか!」 コルベールは空腹でぶっ倒れた。 獣のように食事をむさぼるコルベールの横で、ルイズはその装置の取っ手をくるくると回す。 上に突き出た二本の端子の間に青色に輝くスパークがほとばしる。 彼らは知らないことだが、それは二本の江戸の終期に平賀源内によって広まった装置、『えれきてる』と同じものであった。 ルイズはそれの試作二号機を受け取り笑みを浮かべた。 材料はそろった。 余談ではあるが、この日コルベールは偉大な一歩を生み出した。 それは未来において『コルベール電気』という世界のエネルギー産業を席巻する財閥の出発地点であったのだが、それはまた別のお話。 だがコルベールにはそれよりも、何よりも喜ぶべき即時的な恩恵があった。 かつてエレキテルは治療に使われた。電気刺激により体のコリを和らげたり血行を良くしたりできるためだ。 そう、血行を良くして細胞を活性化させてくれる、それがエレキテル。 コルベールは毎朝鏡の前で幸せいっぱいの顔で鼻歌を歌う。 頭に生えた、細いが確かに根付く黒い毛髪。 彼の特長とも言うべきバーコードは、もう、無い。 back / next
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/20174.html
登録日:2010/09/20(月) 22 43 06 更新日:2024/04/21 Sun 16 22 34NEW! 所要時間:約 4 分で読めます ▽タグ一覧 ASSASSIN'SCREED PS3 UBI Xbox360 アサクリ アサシンクリード カウンターゲー ゲーム ステルスゲー ドジっ子アルタイル ハサン・サッバーハ パルクール ユービーアイソフト 中東 地獄のサブメモリー 影分身の術 必殺仕事人 暗殺者 Nothing is true.Everything is permitted. 真理は存在しない。この世に許されぬ行為などない。 ―アサシン教団信条より抜粋 『アサシン クリード』(Assassin's Creed)とは、UbisoftがPS3、Xbox360向けに発売したソーシャルステルスアクションゲーム。 ◆概要 中世盛期のエルサレム、アッカ、ダマスカスなど「大シリア」を舞台に、広大なオープンマップ型フィールドをエクストリームスポーツ「フリーランニング」を駆使して駆け抜け、アサシン教団の一員として自身の名誉挽回を賭け騎士団の主要人物暗殺任務を遂行していく。 続編として「アサシン クリード Ⅱ」「アサシン クリード ブラッドライン」がある。 市民を助ける為に兵士を倒すも良し、それを無視するも良し、屋根の上の歩哨を投げ捨てる(落とす)も良し、兵士相手に暴れるも対兵士通り魔も良しと自由度が高い。 但し、市民に手を出すと掟に背くためシンクロ・バー(=HP)が減る ◆ストーリー 1191AD. 第三次十字軍時代エルサレム。 十字軍の遠征により、聖地は混沌に陥っていた。戦いを収束させるべく、一人のアサシン(暗殺者)が送り込まれる。 彼の名はアルタイル。 かつて最高位の「マスターアサシン」の称号を得ながら重要なミッションに失敗し、地位を追われた若者である。 新たにチャンスを得たアルタイルは着々とミッションを遂行し、十字軍やイスラム勢力の要人を暗殺していく。 しかし、ターゲット達に隠された秘密が明らかになるにつれ、彼は全世界を脅かす、恐るべき陰謀を知ることになる…… ◆登場人物(※中心人物のみ記載) 《アサシン教団》 ◇アルタイル 若くして師範代に登りつめた「マスターアサシン」。 しかし力に溺れた自己中で、ある重要ミッションで「敵の眼前に啖呵を切りながら踊り出る」というアサシンにあるまじき行為を行った結果、重要アイテムは奪われるわ同行していたアサシンは片腕を失うわその弟は殺されるわで、結果的に本拠地に敵を誘い出してしまうわの散々たる失敗。 処刑されても仕方ないところをその腕を買った教団長に助命され、マスターから見習いまで地位を落とされた上で教団から与えられたミッションをこなしていく厳命を受ける。 ミッションをこなしていくうちに本来の「暗殺者の信条」を思い出していきその奢りを改心するが…… 後の時代では『伝説のアサシン』と呼ばれるようになる。 詳しくは個別項目で。 ◇アル・ムアリム 教団の長。 自らのとある計画にアルタイルを利用しようとするが…… ◇マリク・アルシャイフ アルタイルの同僚。 アルタイルの項目にもあるように、とある作戦時に左腕と弟を失ってしまう。 以来、一線を退いてからはエルサレムの管区長となる。アルタイルには何かと突っかかるが、まあ残念でもないし当然である。 だが終盤の彼は「漢」。人間的にも成長し、心を入れ替えたアルタイルからの謝罪を受け入れる場面は本当に名場面。 ちなみに弟のカダールはアルタイルのことを純粋に羨望の眼差しで見ていた様子。色々憐れである。 《テンプル騎士団》 ◇ローベル・ド・サブレ 騎士団長。 ある計画によりこの世を手に入れようとする。要は悪党。 ◇タミール 闇の武器商人 ◇タラル 奴隷商人 ◇アブル・ヌクド 肥 満 体 ◇マハド・アッディーン 独裁者 ◇ジュバイル・アルハキーム 神学者 ◇モンフェラート候ウィリアム 執政官 《チュートン騎士団》 ◇シブラント 騎士団長 《ホスピタル騎士団》 ◇ガルニエ・ド・ナプルス 騎士団長or医者 ◇マリア ??? 【以下微ネタバレ】 実は、上記の世界は「記憶の世界」である。 現実世界は現代2012年。アニムスと云う特殊な装置で青年・デズモンドのDNAに記憶されている先祖の記憶を見て、『エデンの果実』と言われる秘宝を探している。 ◆現代登場人物 ◇デズモンド・マイルズ アルタイルの子孫。バーテンダーとして働いていたが、アブスターゴ社に拉致監禁される。 アサシンや自分の家系について一切知らないそぶりを見せるが、実は承知しており、自身もアサシンである。(ご先祖様に関しては知らなかったが) しかし本格的な訓練前に逃げ出している為、この監禁状態に立ち向かう力は皆無。 ◇ウォーレン・ヴィディック デズモンドを拉致したアブスターゴ社の研究員。話が長い。 デズモンドを通じてアルタイルの記憶から情報を得ようとしているが 『肝心な記憶はご先祖様と同調(シンクロ)率を上げないと見られない。なので比較的見やすい記憶から徐々に同調率を上げる必要がある』 『かと言って長時間繋がっていると同調しすぎて記憶がごちゃごちゃになる“流入現象”が起きて被験者の精神が壊れる』 というジレンマからなかなか捗らないため、彼も彼で(上からせっつかれて)やきもきしている。 今作の段階ではちょっと間の抜けたおっさん博士だが、続編が出るごとに腹黒具合がマシマシになる。(出番は減るけど) ◇ルーシー・スティルマン ウォーレンの助手。 何かとデズモンドを庇うが正体は…… ◆用語 ◇アニムス・システム DNAに記憶されている先祖の記憶を呼び戻し追体験させる装置。 プレイヤーは正確には「アニムスでアルタイルを操作するデズモンドを操作する」という事になる。ああややこしい。 まだ試作段階のようで何かとバグる。記憶の世界で翻訳できていない言葉があるのもこいつが未完成だから。 ◇アブスターゴ社 表向きは製薬会社だが、実際はテンプル騎士団の子孫が作った秘密結社(?)。 ◇アサシン教団とテンプル騎士団 古の時代より世界を陰から支配してきたのがテンプル騎士団で、それに対抗するために結成されたのがアサシン教団、という認識でオッケーである。(アサシン教団の成り立ちに関しては2017年発売の「オリジンズ」まで待つことになったが) タクティクスオウガで言うならアサシン側はカオスルート、テンプル側はロウルート。 メガテンシリーズで言うならアサシン側はガイア教、テンプル側はメシア教。大体そんな感じ。 トランスフォーマーだと……まぁどっちとも言えませんね。 どちらも最終的には世界の平和のために戦っているのだが、片や自由を、片や秩序を重んじているため、決して相容れることなく争いあっている。自由主義と啓蒙主義みたいな? アサシン側のいいところは上記の通り、自由であること。ただし我が強くてひたすら暴力に傾倒してしまう者もいて、これは本作におけるアルタイルも当てはまってしまう。のちに彼は考えを改め、人としてずっと成長することになるが、『真実はなく、許されぬことなど無い』という教義の在り方については終生悩むこととなった。 自由な分、一枚岩ではなく、離反者が出るのもこっち側の難点。 テンプル側のいいところはその逆で規律がしっかりしていること。 ただこちらの項目にもあるように、善悪はどうでもよくて、とにかくきっちりしていればいいというスタンス。なので圧政でもおk、である。 このゲーム内の歴史的にはずっと優勢側と言っても過言ではないためか、離反者はいない様子。ぶっちゃけ福利厚生もこっちの方が良さそうだし。まあ権力の座に胡坐をかいて贅沢三昧していたりする俗物もめっちゃいるけど。 ◆舞台 ◇マシャフ シリアの険しい山岳地帯にそびえ立つ、アサシン教団の本拠地。 ◇ダマスカス イスラム教文化の中心地。シリアの大都市。 ◇エルサレム さまざまな民族や文化が共存する都市。十字軍の聖地でもある。 イスラム勢力とキリスト教系勢力の争いが、当時(よりも前)から現代までの永きに渡り続いている事を再認識させられる。作中当時はイスラム勢力下。 ◇アッカ 十字軍の重要な拠点となってる港街。住民の9割はキリスト教徒。 ◆余談 タイトルの訳は「暗殺者の信仰」(*1)。 世界観に宗教色が織り込まれているので、確かに頷ける。 現実の宗教や信仰という極めてデリケートなものを取り扱う部分もあってかシリーズではゲーム起動時に このゲームのストーリーは歴史上の出来事をテーマとしたフィクションです。 また、この作品は、異なる信仰、信条を持った人々からなる様々な文化的背景を持つチームにより製作されました。 というメッセージが表示される。 追記、修正お願いします。 △メニュー 項目変更 この項目が面白かったなら……\ポチッと/ -アニヲタWiki- ▷ コメント欄 [部分編集] Bestが中古で安かったから暇つぶし目的で買ったらどハマりしたでござるの巻。フリーランニングが凄く楽しい。 -- 名無しさん (2014-01-05 23 18 55) ↑楽しかったなら、続けて2,ブラザーフッド、リベレーション、3と買ってくるんだ。現代編は全部話繋がってるから。 -- 名無しさん (2014-01-06 00 26 04) ↑お前は俺の財布に何の恨みがあるんだ……! -- 名無しさん (2014-01-06 16 05 11) 幕末やってくれねえかな -- 名無しさん (2014-01-06 16 45 47) 2とブラザーフッドが好きだな。イタリアの街楽しい 3は高い建物が無かった… -- 名無しさん (2014-01-06 17 17 27) 俺はただのバーテンだ!バーテンダー! -- 名無しさん (2014-02-18 16 39 48) このシリーズって2から基本システムが仕上がってきたから1は実質お試し版に近い。 最新作のシンジケートに至っては最早1とは別物。 -- 名無しさん (2015-12-26 22 24 19) 世界観まとめてあるところとかないですかね。オリジンズとかやったらさらに訳がわからなくなってきた -- 名無しさん (2019-01-29 23 02 25) 本家Wikipediaにアサクリ世界の年表の記事があるんでおすすめですよ -- 名無しさん (2019-02-01 01 24 15) 自分はエツィオサーガやってブラックフラッグとローグやってから最近になって1をやってみたんだが、↑3の言葉が強く理解できた。ゲームシステム違いすぎてやりづらくてしゃあない。 -- 名無しさん (2019-02-01 14 10 29) オリジンズ以降のシステムで1とエツィオサーガのリメイクして欲しい。ストーリーは一番シンプルだし、世界観も独特で面白いんだよなぁ… -- 名無しさん (2019-02-01 19 59 16) バグがほぼ改善された今ユニティが一番アサシンしてて面白いんだよなこのシリーズ。パルクールも最高峰。 -- 名無しさん (2023-01-23 17 24 52) 名前 コメント
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/652.html
back / next 一話 『林檎をかむと歯茎が痛い』 朝、起床したルイズが初めに行ったことは、鏡を見ることだった。 額が焼けたようにジンジンと熱く、それが絶え間ない頭痛を与えてくる。 袋にパンパンに物を詰め込むようなおかしな痛みを感じながら、鏡に映った己を見る。 その額にはルーンと思しきものが浮かび上がっていた。 ルーン? そう認識した瞬間熱量が急速に増加する。 熱い! 熱い! 痛い! 死ぬのだろうか? ぼんやりとそんなことを考えながらルイズは部屋をのた打ち回った。 数分後ようやく熱と痛みが引き、よろよろと立ち上がる。 鏡台に手を突いた瞬間、頭の中に何かの情報が流れ込む。 ―名前:魔法のチェスト ―分類:家具 ―機能:自動で開閉する。 ―使用方法:杖を介して魔力を流す。 ―追記事項:特になし。 それは彼女が手を置いている鏡台の情報に他ならなかった。 ルーンが刻まれたのはおそらく使い魔のあの実を食らったからだろう。 ならばこの流れ込む知識は何なのか? 恐る恐るといった様子でルイズは己の杖を手に取る。 ―名前:魔法の杖 ―分類:魔法補助器具 ―機能:魔法を行使する際の補助器具。 ―使用方法:魔法を行使する際片手に持つ。 ―追記事項:特になし。 つまりこれはルーンの効果だろう。 ほんの少しの幸運に、ルイズは嬉々としながら振り返る。 その目に昨夜食べちらかしら実の上1/3が止まった。 そういえば、と思考する。 使い魔を食らってそのルーンの機能を取り込む、などという話は過去に存在しない。 ならばこの実の何らかの効能か? とその残りの部分を拾い上げた。 ―名前:悪魔の実・ボムボムの実 ―分類:魔法植物 思わず手を離す。これは魔法生物だったのか!? 恐る恐る実を拾い上げた。 ―名前:悪魔の実・ボムボムの実 ―分類:魔法植物 ―機能:食したものに特殊な能力を付与し、代償として海に嫌われ泳げなくなる。ボムボムの実の場合、爆弾人間になる。 ―使用方法:食する ―追記事項:爆弾人間とは、その全身および装飾品、排出物(吐息や唾液、涙や血液など)を爆発物に変え行使できる…… 次々と流れ込む情報。実の使用法だけでなく栽培方法、そのための必要な環境、他の実の情報、その効能。 あらゆる悪魔の実の情報がルイズの頭に流れ込む。 「あは、あはは、あはははははははは!」 ルイズは知らず、歓声を上げた。 キュルケにとってルイズのテンションの高さは異常にしか思えなかった。 朝の食事では周りのいやみを気にすることなくメイドに話しかけ談笑、授業では錬金の実習を命じられて「できません!」とはっきり。 ああ、かわいそうなルイズ! とよろめきかけたキュルケが見方を変えたのは、ルイズがコルベールに話しかけたときだった。 「ミスタ・コルベール、秘薬の材料の栽培を行いたいのですが……」 「ん? ああ、栽培するスペースかな? それならこの中から好きな場所を選ぶといい。必要ならメイドあたりを一人つけてもらえるが」 「いえ、その……」 「何かね?」 少しためらったあと、ルイズはコルベールに目を向けた。 「育てたいのは木なんです。それもかなり大きな」 手伝うメイドにはシエスタが指名された。 植えられているのは悪魔の木、さまざまな実を宿す呪われた木。 ルイズは心底楽しそうに、地面から飛び出た実のヘタを撫でた。 いさかいのきっかけは些細なものだった。 ギーシュの落とした香水のビンをシエスタが拾ったのがきっかけ。 場をごまかそうとギーシュがシエスタに責任を押し付けようとしたのだ。 仮にも女性を尊重するグラモン家の三男がそれはどうかと思うが、彼もおそらく本気ではなかったのだろう。 だが周りがそれをはやしたて、場はシエスタへの仕置きの流れに変わっていた。 「やめなさいよ、みっともない」 ルイズの声がなければ、シエスタはきっと恐怖で気絶していたことだろう。 「ミス・ヴァリエール、君とは関係ないだろう?」 「黙りなさい。仮にも貴族ともあろうものが自分の失敗を人に擦り付けるんじゃないわよ、情けない」 「っ! やけに彼女をかばうねえ」 「その子は私の使用人も兼ねてるの。暴挙は許さないわ」 シエスタはルイズにすがるような目を向ける。 「……ふん、流石はゼロのルイズ、魔法が使えないもの同士仲がいいとみえ……」 ギーシュの真後ろにあったグラスが轟音を立てて爆発した。 「それ以上は許さないわ」 「……だったら何だというんだい?」 その爆発の大きさに冷や汗をかきながらも、ギーシュは見栄を張る。 あ、マリコルヌが破片をぶつけられて目をまわしてる。 「それ以上ふざけたことを言ったらその頭を爆破してあげるわ、ギーシュ」 「面白い。ならば決闘だヴァリエール! ヴェストリの広場で待つ!」 そう言うとギーシュは足早に去っていった。 本心では離れたかったのだ、妙な威圧感を放つルイズから。 ルイズは黙って席を立つと、破片の一つを握り込む。 手のひらが切れ軽い出血を起こす。 それを確認し、ルイズは食堂を後にした。 ヴェストリの広場には、すでにたくさんの観客という名の野次馬が集まっていた。 「よく逃げずに来たね、ヴァリエール!」 「あなたごときに逃げる必要が?」 ピクリとギーシュの額に血管が浮かび上がる。 ギーシュは思い直す、相手は所詮ゼロだ、僕が負けるわけがない! ギーシュ、それ死亡フラグ! もしくは敗北フラグ! と叫ぶ声も無視して、彼はそのバラの造花を握り締める。 「ではミス・ヴァリエール! 僕のワルキューレがお相手しよう!」 杖が振るわれ一体の青銅製の戦女神の人形が錬金される。 「うらやましいわね……」 ルイズはひっそりと、ゆがんだ笑みを浮かべた。 「さあヴァリエール! 今なら降参も……」 その言葉は続かなかった。 ルイズの体が前へ傾き地面を蹴る。 格好をつけていたギーシュが反応するまもなく、ルイズはワルキューレの懐へもぐりこんだ。 手のひらが切れた左手をそれに押し付ける。 慌ててワルキューレを動かすが、既にルイズは退避済み。 ルイズが杖を振るう。 杖に反応するようにワルキューレが盛大に爆発した。 唖然とするギーシュに、ルイズは年不相応な妖艶な笑みを浮かべる。 「もうおしまい?」 「ま、まだだ!」 慌てて杖を振るうギーシュ。 杖にあわせ出現する六体のゴーレム。 だがそれに慌てることもなく、ルイズは足元の破片を拾い上げた。 それを握り込み、手のひらの傷を深くする。 その手を振った。 飛び散る血のしぶきがギーシュにも降りかかる。 「ヒッ!」 小さく悲鳴を上げるギーシュを視界からのけると、ルイズは右手の杖をギーシュに向け左手をパチンとならした。 轟音と共に六体のワルキューレが吹き飛んだ。 「まだ、やるの?」 ことここにいたってルイズが何をしたかその場にいたものの想像は結論に達していた。 つまりルイズはばら撒いた血を介して何かをしているのだろう、と。 もちろんそうではない。単に血をボムボムの実の能力で爆破しただけだ。 だがそうとはわからないギーシュは己についた血を必死にぬぐう。 「ギーシュ、負けを認めるなら杖をこっちに放りなさい。まだやるならあなたはきれいな花火を咲かせて、ボンッ」 ギーシュは黙って杖を捨てた。 ところで諸氏は人の好意に類する感情がどう構築されるかご存知だろうか? それは落差である。 空腹のときに食べるジャンクフードは満腹のときの高級フレンチよりはるかにうまい。 そう、落差である。 「ミス・ヴァリエール! 左手の治療を!」 「あ、ありがとう……ルイズでいいわよシエスタ」 「ははははい! ルイズ様!」 シエスタのルイズを見る目は好意以上の何かがあった。 そう、落差である。 ギーシュにより死の恐怖まで味わいかけたシエスタにとって、同じ位置にいるルイズの好意は通常より大きなものとなったのだ。 「何かいやな予感がするわ……」 back / next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/782.html
back / next 五話 『あごを鍛えなければいかんですな』 フーケはハルケギニアを脅かす盗賊である。 彼女の手口はこっそり忍び込むものから大胆に奪い去るものまで多種にわたる。 共通点は三つ。 一つは必ずサインを残すこと。一つは貴族の持ち物しか狙わないこと。もう一つは偽者を許さないこと。 過去に一度ドットメイジの男がフーケの名を語り強盗を行ったことがある。 それは本物と違い襲った店の主を殺し、家族と使用人を暴行した上に金品を根こそぎ奪うという非情な手口だった。 だがその男の凶行はその一度で終わる。 数日後本物のフーケによって男が衛兵に引き渡されたからだ。 懐には「偽者確かにお渡ししました フーケ」と書かれたカード。加えて男は“男”として再起不能になっていた。 そんなフーケは現在トリステイン魔法学院の宝物庫の前で途方にくれていた。 「なんて“固定化”だよ。傷一つ付きゃしない。あのコッパゲ、ああ元コッパゲか、物理的に壊せばいいとか言ってたけどそもそもが硬すぎるんだよ」 ゴーレムを崩しフーケは嘆息する。 「しょうがない、別の方法でも探してみるかね」 「実、大きくなってるわね」 「大きくなってますね」 悪魔の実が二つ、朝見に来ると少しだけ大きくなっていた。 「しかも見たことないわね」 「はしご持ってきますね」 パタパタとかけていくシエスタを見送り、ルイズは実に目を向ける。 「次は何よ。豚かしら? 豚だったらぜひとも“かぜっぴき”のやつに食わせてやりたいわね」 だがしかしながらその実は、彼女が願って止まないロギア系の実だった。 「どうして? どうして私はダイアルを付けてなかったの? 馬鹿じゃないかしら私……」 「ルイズ様ぁ……」 自己嫌悪に陥りつつも、ルイズはシエスタにビジョン貝の設置を指示する。 小屋の中に入り天井のダイアルをつついて明かりをつけ、レポートに使っているファイルを広げる。 写真貝で取った写真の横に書き連ねられた悪魔の実と悪魔の実の詳細。 「え~昨夜の天気は雨、いえ嵐かしら。雷鳴とどろく嵐の夜っと。生成されたのは“メラメラの実”と“ゴロゴロの実”、採取には不十分、仔細不明、何かが不足していると思われる、と」 「ルイズ様、なんかこっそり熟してる実がありました」 ダイアルを設置して帰ってきたシエスタは、妙な実を二つ抱えていた。 洋ナシ型とでも言おうか、下のほうがでっぷりとした実。 映像と取りサイズと重さを計測し、ルイズは実に触れた。 「……うわ、冗談のつもりだったのに」 「何の実ですか?」 「両方“ブタブタの実”よ……」 「……冗談が当たっちゃいましたね」 「まあでもマシなほうね。モデルはイノシシだから」 「豚さんに食べさせたらどうなるんでしょう?」 「……二つあるし実験してみる?」 ルイズは豚を一匹飼っている。 秘薬の材料を探しにいける使い魔を持たないルイズは、そういったものの検索を普通の動物に任せるほかなかったからだ。 豚を選んだ理由は『キノコ』を取るためだった。 毒にも薬にも使える各種キノコ、鉱物のように一箇所にとどまることもなく、他の薬草などのように栽培することも難しい。 魔法のキノコの中にはある程度の移動能力を持つものもあり、同じ場所で取れないというのもその理由だった。 「さあカツ丼ちゃん、マジックマッシュルームを探してくるのよ!」 「プギー!」 「ルイズ様、どっちも問題のあるネーミングです」 一般に豚は臭いといわれるが、それは大きな間違いである。 臭さの原因は豚肉用の豚を大量に飼育する場合の環境にあり、豚自体は実はかなりのキレイ好きなのだ。 ルイズは食肉用ではなくペット用に魔法で改良された豚を一匹購入し、購入してきた魔法のキノコの香りを覚えさせる訓練を日々行っていた。 「いい子ねカツ丼ちゃん、ご褒美よ~」 「プギャー!」 「ルイズ様、それはワライ茸です」 閑話休題。 ブタブタの実の一部を切り取りカツ丼の餌に混ぜる。 残りの部分をシエスタに渡し、カツ丼の小屋へ。 「こっちはどうするんですか?」 「食べてもまずいだけになるけど苗床には使えるでしょ」 カツ丼はムシャムシャと餌を食べている。 悪魔の実のかけらもしっかり飲み込んで満足そうに目をほぞめるカツ丼に、ルイズは本を開いて見せた。 魔法による改良が行われたこの種の豚は、ある程度人間の言葉を理解する。 「カツ丼、この絵があなたの野生の種類。これになる自分を想像して」 首をかしげるカツ丼。 「あのね、これに変身するのからだがこれに変わるのを……」 それはまさに力だった。 それはまさに脅威だった。 それはまさに安らぎだった。 そこには大きなイノシシがいた。 長い牙、豊かな毛並み、なによりその五メイルはあろうかというサイズ。 「乙事主……」 「オッコトヌシ?」 「はい、おじいちゃんの故郷にいたらしいイノシシの神様、森の神様です」 「……この子はカツ丼ちゃんなんだけどね」 「ゴルルルルッ」 「声まで変わっちゃって、まあ。元に戻って」 「餌に魔法のキノコ混ぜたからですかねぇ」 メキメキと音でもでしそうな過程を経てカツ丼は豚に戻った。 「かっこよかったわよ~カツ丼ちゃん」 「長い牙でしたねー」 「プギー」 ドカンと、何かを殴る音がした。 フーケは宝物庫の情報をさまざまな方法で調べに調べた。 その結果がこれだ、馬鹿力での破壊。 無理やり壊す以外に方法がないという調査結果に、フーケは嘆きつつもゴーレムの拳を振りかざした。 ガクンと、ゴーレムの左足が傾ぐ。 「え?」 下を見ると巨大なイノシシに打ち抜かれるゴーレムの左足。 そのまま後ろを振り返ると、杖を自分に向ける少女の姿。 「やばっ!」 慌ててゴーレムを錬金、その内部に逃げ込む。 直後飛来した魔法が目の前の宝物庫の壁にヒビを入れた。 「うっそぉ……」 今まで何をしても傷ひとつつかなかった外壁に大きなヒビ。 フーケは迷わずそのヒビにゴーレムで殴りつけた。 開いた穴から飛び込みおいてあった筒を回収、錬金で壁にメッセージを描く。 ルイズが追いついた瞬間ゴーレムは崩れ落ち、フーケはその姿をくらませていた。 『獣の大筒、確かにいただきました フーケ』 学園は大騒ぎだった。 学園のメイジたちを残らず出し抜いて侵入、加えて宝物庫から『獣の大筒』を奪って逃走された。 「まあとにかくじゃな、なんとしても学園の中だけでことを納めねばならん」 「ですが!」 「責任責任とうるさいのうギトー君。君だってサボっておったろ? ちゃーんとミス・ロングビルにチェックさせとるからな、次の査定は覚悟せえ」 「そんな! 家のローンが!」 「やかましい! それで、フーケを捕らえて名を上げようというものはおらんのか? ん?」 誰も杖を上げない中、目撃者として来ていたルイズが静かに手を上げた。 「オールド・オスマン、私が志願いたしますわ」 「ほう、ミス・ヴァリエール、君は生徒じゃろう?」 「だからなんだというのでしょう? 先生方はお忙しいようですから私が手を上げてさしあげてるだけですわ」 「たしかにのう。貴族がみな君くらいの勇気を持っておればよいのじゃが……のう!」 ギョロリとした目で周りを見渡すオスマンの視界で、キュルケとタバサが杖をあげた。 「私も志願いたしますわ」 「同じく」 「ほうほう、生徒たちは勇敢じゃのう……のう! ところでミス・ロングビルはどこじゃ?」 いつもなでているナイスな尻が手に届く位置にないため、オスマンは周りを見渡す。 「オールド・オスマン! ご報告が!」 「おお、ミス・ナイス尻……ゲフンゲフン! ミス・ロングビル、今までどこにおったのかね?」 「尻? フーケについての調査をしていました」 「して首尾は?」 「潜伏先が判明しました」 オオッと湧き上がるメイジたちの中、ルイズとタバサは眉をしかめる。 「そうかそうか。ではミス・ロングビル、その三人を連れて『獣の大筒』を取り返しに行きなさい」 「え? せ、生徒ではありませんか!」 「文句はこの腰抜けどもに言うがいい。では心してかかりなさい」 「「杖にかけて!」」 移動中、シエスタがルイズの耳元でこっそり話しかける。 「ところでルイズ様、外壁を壊したの「シエスタ、あなたは私の味方よね?」」 ルイズは同じく小さい声でささやきながらシエスタの首に手を回し、唇が耳につくほどの近さで話しかける。 するりと手を襟元から差し入れる。 「ひゃひゃい! もちろんですぅ~」 「ありがとう、シエスタ」 ぱっと離れる。 手綱を握るのには成功した模様。 back / next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/1016.html
back / next 十話 『だから歯茎が痛いっつってんだろが、あ?』 真っ当に生きていたからといって幸せになれるかといえばそうではない。 幸せの量は常に一定であると誰かが言った。だから幸不幸が存在するのだと。 ならばこのモット伯は間違いなく幸の側であり、それを提供するのは力なき平民たちであった。 モット伯はメイジの間ですら評判の悪い男である。 平民の少女を金と権力を使って無理やり手篭めにし、飽きたら幾ばくかの金を握らせて追いやる。 貴族至上主義のこのトリステインにおいて、それを言いとがめることができる平民はいない。 メイジたちにとっても金の使い方がうまいモット伯をどうにかすることができなかった。 「シエスタが買われた?」 朝の挨拶に出てこないシエスタを心配して食堂を訪ねたルイズに、そのむなしい真実は語られた。 心底悔しそうな顔でマルトーはコック帽を握り締めながらうめく。 「見初められて奉公ってんなら俺も気にしやしませんがね、家族の話を持ち出して連れてったんです。あんなのないですよ」 「……」 食堂からの帰り道、ルイズは何もしゃべらなかった。 沈黙を破ったのはギーシュ。 「彼女に八つ当たりした僕が言ってはいけないかもしれないが、今回の件はさすがに気に入らない。平民であっても女性を一方的に辱めるのはゲスのすることだと父上に習ったよ」 「ゲルマニアは身分はあまり関係ないし平民の権利もしっかり守られてるものねぇ。むしろこの国を理解できないわ」 「モット伯は世渡りがうまい。公式に彼を止めるのは不可能だろうね」 ルイズは何も言わず、黙って裏庭に消えた。 「……怒ってるわね」 「彼女を気に入っていたようだからね。無茶をしないでくれるといいんだが……」 ルイズの研究小屋、木造の簡単なもののはずがいつの間にか総石造りになっているが、その横でロングビルが庭石の残骸を錬金して置物を作っている。 「“フーケ”モット伯のうわさの信憑性は?」 「ほぼ完全。被害者の一部を色町で見たことがあるね。同じ女としちゃ蹴り殺してやりたい相手かな?」 「ありがと。小屋の黒い球体持って行っていいわ」 「あれなんなんだい?」 「炭素の単結晶体。ダイヤモンドほどじゃないけど高い硬度と優れた粘度が特徴」 「何かには使えそうだね、もらっておくよ。そうそうサービスだ」 「何?」 置物を畑の周りに並べ、ロングビルはパンパンと手を払う。 「モット伯は中身はともかく『波濤』なんて二つ名賜るくらいの実力の水のトライアングルメイジだ。 何するつもりか知らないけど“爆発”がメインのあんたとは相性悪いんじゃない?」 「記憶にとどめておくわ」 そう、魔法はともかく“ボムボムの実”の能力は、自分という火薬が濡れている場合着火できない。 「能力に頼るのはやめたほうがいいわね。さてどうするか……」 コツコツと窓を叩く音、見るとフレイムとヴェルダンデが窓から顔を覗かせていた。 戸を開けるとフンフンと鼻頭をこすり付けてくる。 「……手伝ってくれるの?」 「きゅるきゅるる」「モグモグ」 「そう、なら徹底しなくちゃね」 フレイムは憤っていた。 彼はもともと非常に知性の高い存在である。基本が獣であるため強いオスにメスが嫁ぐこと自体に疑問は浮かばない。 だがその知性ゆえ人間の強さは戦闘力だけではないことも理解してる。 しかしながらオスはあくまでメスを取り合って他のオスと戦い、その強さをアピールするに留まるべきだと考えている。 強さで相手を縛ろうとするモットに、フレイムは強い嫌悪感を感じていた。 (獣以下の外道めが!) ヴェルダンデは純粋な義憤の心で動いている。 同じメスとして気に入らないし、何よりルイズが怒っているから。 己の主を変えた彼女のため、己の主の友人のため、ヴェルダンデは同行する。 ていうか毎朝の毛づくろいでシエスタを気に入っただけだったりするが。 ルイズは二匹の前に座り込み、二つのかけらを差し出しながらつぶやく。 「正体がばれてはいけないわ。だから見た目を偽る必要があるの。これを食べればそれが可能になる。その代わり一生泳げなくなるわ。それでも?」 二匹は、迷うことなくそれを喰らった。 そもそもフレイムは火トカゲだ、泳ぐという発想がない。 ヴェルダンデにしても水中は得意ではなく、地中を泳ぐように掘り進むなら馬よりも早い自信がある。 水とあまり関係のない生態の二匹にとって、それはリスクになりえなかった。 「ありがとう。カツ丼ちゃん、行くわよ」 室内のガラクタや火の秘薬をゴリゴリ食らって、ルイズは研究時用の作業着を着込む。 実験の際に地面に敷いたぼろい布をあえてマント代わりにまとう。 フレイムとヴェルダンデをカツ丼の上へ、ルイズはただ夜の闇の中をモット伯めがけてひた走る。 シエスタは物事をポジティブに考えるように努力していた。 モット伯のうわさは聞いていたので、覚悟を決めるほかなかった。 ポジティブに考えよう、そうだ、どうせなら自分に夢中にさせて操るくらいはしよう! そういうふうに思うよう勤めながら、シエスタはモットの用意したそれ用のメイド服に着替える。 だがモット伯の部屋に足を踏み入れたとき、そんな思いもかすんで消し飛んでしまいそうだった。 「ほら、早くこっちに来んか!」 怖い、怖い、怖い。 恐怖にがちがちに震えながらシエスタはベッドに腰掛ける。 それをいきなり押し倒す、ムードとか演出とかはまるで考えない女に嫌われそうな行動に出るモット。 「ヒッ(いや、いや、いやあ!)」 目をぎゅっとつぶったシエスタの脳裏に浮かんだのはルイズではなく、自分と同じ色の髪と目をした少年の優しい笑顔だった。 屋敷が震えるほどの轟音が響き渡った。 「何事かあ!」 モット伯はいらだっていた。 久しぶりに手に入れた上玉をさあこれから、というところで轟音。 シエスタを部屋に残しいらいらしながらバルコニーへ向かう。 その眼前には無理のある光景が広がっていた。 真っ赤な髪と真っ赤に輝く目をした大男が、明らかに人間には無理な位置まで牙のぞろりと覗いた口を開いて、手当たり次第にフレイム・ボールを、それも無詠唱でばら撒いていた。 モット伯の屋敷の少し手前、ルイズはカツ丼を元に戻して待機させると二匹に与えた実の説明を始めた。 それは“ヒトヒトの実”、喰らったものに人間としての能力を与えるもの。 人間が食べてもあまり意味のない実だが、人間以外が食べるときその真価を発揮する。 いち早く意味を察したフレイムが己の体に意志を通す。 メキメキメリメリと音を上げて、フレイムが人間に代わっていく。 真っ赤な髪と真っ赤な目、小麦色の肌に点在するうろこ、二メイルはあろうかというキュルケの男版とでも言うべき大男がルイズを見下ろしていた。 「うっわぁ~高~」 視線を戻すとその裸体の腰から下の映像が目に飛び込んでくる。 「……キュルケが気に入りそうね」 フレイムは疑問符を浮かべたままだった。 次いでヴェルダンデが変身を完了する。 なんというか大雑把な大女が立っていた。 ギーシュに姉がいればこんな感じだろうか? という雰囲気をかもし出す彼女。 ただ大きい、背丈だけでなくあれもそれも全部大きい、ちょっとくらい分けろこのやろう! げふんげふん。 女は自分の体をしばらく見つめ、ルイズに視線を向けてにかっと笑った。 「これを着ておいて頂戴」 二人用に赤と青の二着のつなぎを喰らった布と金属から作り出し、ルイズは自分の変身を開始した。 取り込んだ金属が体を覆い、ルイズの見た目を変えていく。 内部の成分配置が書き換わり、髪の毛が急速に色を変えていく。 ものの数秒で、異様に長い手足を金属で覆い背中に何かの装置を背負った怪人が誕生した。 「さてと」 ガッと口から三つ、丸みを帯びた何かを吐き出す。 それは凶悪な仮面。それを頭にかぶり、ルイズからできた怪人は門に目を向けた。 「いくわよ」 合図と共にフレイムは一歩前へ、ヴェルダンデは両手をモグラのカギ爪に変え目の前の地面に飛び込んだ。 一番不幸なのは誰かと問われれば、それはこのモット伯の館を作ったものだろう。 自信を持って作ったであろう主と違い華美にあふれるその屋敷は、見るも無残に崩壊を始めていた。 バクバクの実の悪魔が体内にストックした金属と硫黄から砲弾を作り出し、ルイズの両手から吐き出されるそれらは外壁を、壁を、窓を、扉を、そのことごとくを粉々に打ち砕いていく。 屋敷から打って出る傭兵っぽい警備員たちは次々と飛来するフレイム・ボールが黒焼きに変えていく。 ようやく出てきたメイジの眼前には、等しく地獄が広がっていた。 燃える庭園、うめく人間、震えるメイド、死に掛けの消し炭。 傭兵の一人の頭を丸ごと咥えていた赤い髪の大男は、現れたメイジを前に口の中の人間を吐き出し、その大きな口を開けて楽しそうに笑った。 「ウウウウウウウインド・アイシク」 呪文は最後まで完成しなかった。 ただの一歩で踏み込んできた大男のうろこと炎に包まれた拳の直撃を顔のど真ん中にくらい、氷のメイジは沈黙した。 仲間のメイジがやられ慌てふためくメイジたちに、男は情け容赦なく火球を吐きつける。 何とか抵抗を試みたものもいたが、すべて燃え盛る手足に吹き飛ばされていく。 ちょうど五人目のメイジを排除し、フレイムはその目をただじっと屋敷に向けた。 屋敷の中はさらにひどかった。 大男をおとりに屋敷内に進入した怪人は、とりあえず目に付くものすべてを片っ端から喰らっていく。 がたがた震える数名のメイドの前で壁に立てかけられていた斧を食べつくした怪人は、その筒状の右手を大きな扉に向けた。 吐き出される砲弾が、扉を粉々に打ち砕く。 一番端から順番に部屋を空け、その中の調度品をすべて平らげる。 モット伯の精神的ダメージを狙ったこの攻撃は、ただでさえ高い彼の血圧をさらに跳ね上げることになった。 ようやくモット伯が駆けつけたとき、目の前で怪人は大きな金庫の中にあった最期の金貨を飲み込むんでいた。 「貴様あ! よくも私の屋敷を! 私の財産を!」 モット伯の杖から大量の水が噴出す。 それを“砲撃の爆発で跳ぶ”というあまりに非常識な方法で回避した怪人。 それに驚く暇もなく、怪人の鋼の腕がモット伯を襲った。 “下から” キーンとかチーンとかグシャッとかいう音が響く。 片方の性別にしかわからない致命的な痛みを感じ、モット伯は意識を手放した。 思わず己の足の間を押さえた護衛が気配に顔を上げると、目の前には大きな砲門。 「や、優しく殺して?」 吐き出された木製の弾等が護衛の意識を刈り取った。 ヴェルダンデはジャイアント・モールだ。モグラのテリトリーは地中である。 まるで水を掻くようにヴェルダンデはモット伯の屋敷の下に進む。 彼女の鼻は、大好きな宝石のにおいを捉えていた。 あまりよろしくない方法で財産を築き上げるものは、大体が何かしらの後ろ暗い金を持っている。 モット伯の場合地下室が作られ、そこに隠し財産が蓄えられていた。 地下室は外からは絶対に見えない。固定化やロックの魔法を入り口にかけたところで、まさか地下室の外壁にまでそれは施されていなかった。 ヴェルダンデは地中から壁に穴を開けて侵入し、中を検分する。 目に留まった宝石を嬉々としてかき集めるも、頼まれごとを思い出して棚をあさり始める。 数分後、書類の束とオマケの宝石を体にくくりつけ、ヴェルダンデはもといた穴から抜け出した。 そのまま屋敷の中心付近から掘り上がり屋敷の支柱周辺の土砂を削りだしている。 建物そのものが傾き始めたのを確認すると、他の柱にも同じ用に細工を行っていった。 急所の痛みに目を覚ましたモット伯が初めに見たものは、轟音を上げて崩壊していく自分の屋敷だった。 使用人やメイドは既に逃げ出したらしく、都のほうへ向かう馬車の土煙が見える。 呆然とするモット伯の前で、屋敷はその中心から崩れ落ちた。 我に返り慌てて屋敷に内股で走ってゆく、と、門(だったもの)の横に大きなオブジェ。 それが何かを確認した瞬間、モット伯は今度こそ意識を三千世界へすっ飛ばした。 それは金庫やその中の金貨金塊、つぼや絵などの美術品、つまりモット伯の“表の財産”が複雑に組み合わさってできたオブジェだった。 金貨などは鋳造しなおせばいいだろうが、つぼや絵画などはもう駄目だろう。 ちなみに“裏の財産”こと地下室の中身は、まるでその地下室そのものが初めからなかったかのように綺麗に埋めつぶされていたことを記録しておく。 モット伯はこの三日後、王宮に匿名で送られたさまざまな資料により爵位を剥奪されることになる。 晩年は神の道に帰依し過去の自分のように欲望に狂ったものを導いたそうだが、正直本編とはあまり関係ない。 「ってわけで何故かモット伯が捕まって戻ってこれたのです。なんでも怪物が出たとかで」 「私のとこは何故かフレイムが言葉をしゃべるようになってね、毎日うるさくてうるさくて」 「僕のヴェルダンデもだ。韻獣ではなかったと記憶しているのだがね」 「……へえ~いろいろあったのねぇ」 「……ミス・ヴァリエール、ヒトヒトの実が二つほど足りませんが何故でしょう?」 「そういう日もあるわよ」 「「「「……」」」」 back / next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/948.html
back / next 八話 『いやでも歯茎であってあごではなかろう』 ルイズは魔法が使えない。正確には魔法がすべて爆発する、その事実を最近では受け入れ始めていた。 ミョズニトニルンの能力で得られる情報は、信じられないほどにルイズの内面を変えていた。 狭い偏った知識は人間を小さくする、それは世の真理であるかもしれない。 シエスタに頼んで調理場で調理の様子を観察したり、料理の内容を完全に言い当ててマルトーを感心させたり。 シエスタと町に出てさまざまな武器を購入したり、鍛冶屋や彫金・彫刻家を訪ねてその技術を記憶したり。 かつて彼女の姉は行った、『魔法使いは塩を錬金できるが、塩を使ったおいしい料理はできない』と。 まさに真理ではなかろうか。どれだけ優れた魔法使いでも、それを活用できないものに何の価値があろう。そう、フーケ討伐での教師たちのように。 ルイズはキュルケにゲルマニアの話を聞くようになった。 メイジでなくとも金で地位を買える、と野蛮な国とさげずまれるゲルマニア。 しかしどうだろう、果たして政治に魔法の力は必要だろうか? 答えは否である。 能力次第で高い地位を得られるという現実に即した制度、平民だからという理由で高い地位につけないこの国とは大違いだ。 ゲルマニアの製品の技術の高さを見ながらルイズは思う、もしかしてトリステインの国力って低いんじゃないだろうか? キュルケはその小屋の中を見渡していた。 もともとは机と本棚しかなかった小屋が、気がつけばりっはな錬金炉まですえつけられている。 て言うかあれは火の秘薬じゃあないのかしら? どこから手に入れたの? 鉱石の単結晶も増えている。あれはルビーだろうか? あの真っ黒いのは何? ていうか今カツ丼が取ってきてかごに放り込んでるキノコは生息地がわからない希少価値の高いやつじゃ…… 何でこんなに銃がたくさん立てかけられてるの? ……ルイズはどこ? ルイズは木にすえつけた机の上でパーツの整備を行っていた。 手に持つのは一丁の銃。銃身を六本束ねたもの。 この世界においても銃は存在するが、その戦略的価値はあまり高いとはいえない。 戦闘に耐えうる魔法使いはそのほとんどは一、二個の銃創くらいその場で治せてしまうからだ。 そう考えると学園の教師たちは属性特化した魔法しか使えないため、教職というある意味閑職についているのかもしれない。 しかし平民にとって銃と剣は非常に有用な武器になる。 この世界での銃はせいぜいがフリントロック式の先込め単発拳銃までだ。 軍は元込め式の銃も作っているらしいが、それもしょせんは単発式。 自分の能力で作り上げた銃は、その製造過程を現在の技術では再現できない。 それゆえのこれ、その形状から“ペッパーボックスピストル”と呼ばれた銃であった。 六本の銃身は精度の安定のため長めに作られライフリングが彫られている。引き金を引くことで銃身が回転する六連発拳銃。 ルイズが苦労したのは弾丸だった。 この世界には『まったく同じ規格のものを量産する技術』というものが存在しない。少なくともトリステインにはない。 そのため魔法使いが大手を振るい、平民が縮こまることになっているのだが。 それゆえ大量生産しやすい弾丸を作るため、ルイズはその銃の威力を犠牲にすることにした。 剣で斬りつけるまでの足止めになればいいやと、実の影響か徐々に戦闘的になっていく自分の思考に苦笑する。 薬莢を木屑を押し固めて作り、一端に弾丸を、一端に薄めの油紙をはめ込む。 油紙のほうを金属板で密閉し、撃鉄の火打ち金を叩き込むことで着火、弾丸を発射するというシステム。 かつては“早合”と呼ばれた薬莢の原型だが、それが完成したときルイズは思った。 『自分は天才じゃぁなかろうか?』 後に『ゼロ式拳銃壱型』と呼ばれるようになるそれを、ルイズは嬉々とした表情でぶっ放していた。まさにトリガー・ハッピー。 横でシエスタがルイズの作った型に煮詰めてどろどろに溶かした木屑を流し込んで薬莢を作っている。 「ルイズ、もしかしてその拳銃連発式?」 「私は天才よ! キュルケ! 魔法が何!? アカデミーが何!? 私のこれほどの価値があるの!?」 「ハイテンションねぇ。私にも撃たせて」 「オッケーオッケー」 火薬が弱いため大した反動も起こさず、六発の弾丸は吐き出される。 ガリガリと的を削るその威力を目にし、キュルケは思う。 『これ、もしかしなくてもすごい儲けにならない?』 ゲルマニア出身のキュルケは父の仕事を手伝っていたためか、こういうことには目が利く自身がある。 これは間違いなく商売になるだろうし、自分の手を借りなければ量産はできないだろうという根拠もあった。 「ルイズ、これどうするの?」 「まずは改良ね。このままだとちょっと精度が甘いのね」 「なるほど。最終的には売り出すわけ?」 「量産してみようかな、って思ってるけど?」 「なるほど。でも多分無理ね」 「何でよ!」 自分の作品を否定され、ルイズに目つきが鋭くなる。 その小動物が威嚇するような可愛らしさにぞくぞくする中、キュルケは銃を持ち上げる。 「トリステインにこの長さの銃身を量産する技術はないわ」 「……あ゛」 「大量生産するならゲルマニアの技術は必要よねぇ?」 「……何が欲しいわけ?」 ルイズは銃を机に置き小屋を指差す。 「さっき見たルビーの単結晶球とこれを量産することでのマージンかしら」 「量産はまだ先のことよ? それでもいいなら。あとあの結晶は初めから上げる予定だったから問題ないわ」 「初めから?」 ルイズは銃の整備を再開する。横でルイズがしゃべっていることをシエスタがメモしている。あ、あの子読み書きできたんだ。 「あれはルビーじゃなくて蓄炎鉱石。炎の魔法をためておける魔石よ」 「あんなサイズが見つかった事例はないわ」 「当たり前よ。加工した後のくず部分を集めて固めたんだもの」 フリッグの舞踏会というパーティのようなものがある。 貴族の子弟である生徒たちには魔法だけでなく礼儀や作法といったことも学ぶ必要があるからだ。 男子たちが目当ての女性に声をかける中、主役とも言うべき二人が入場する。 真っ赤な胸を強調するドレスを着たキュルケは適当に相槌を打ち、その可憐さを際立てるドレスを着たルイズは完全に無視をして誘いを跳ね除ける。 「やあ、ルイズ」 ギーシュがモンモランシーと共にそこにいた。 「あら、そのレイピア使ってるのね」 「これは最高だよ。何が混ざっているかは知らないが、信じられないほど精神力の通りがいい」 「ヴェルダンデも役に立ってくれてるわ」 グラスを鳴らす。 「あれから思い直してね、いろいろ研鑽を続けてるんだ」 「らしくないわね。才能の無駄遣いが得意技だったのに」 「……厳しいねぇ。まあ機会があれば披露することもあるだろうさ」 「期待しないで待ってるわ」 悪友と共にクククとのどから笑い声が漏れる。 「何よ、ゼロのルイズの癖に……」 恋人が他の女と仲良くしているのが気に入らないのか、テンプレートな侮蔑をもらすモンモランシー。 ルイズは黙ってその両肩に手を置いた。 「確かに爆発しかしないけどねモンモランシー、あなたを消し飛ばすだけなら十秒いらないわ」 少しだけ両手に力を入れると、モンモランシーはヒッとしゃくりあげた。 「ルイズ、僕のモンモランシーを脅すのは止めてくれたまえ。僕みたいに耐性がついているわけじゃないんだから」 「くふふふ。ごめんなさい」 「まあどんなものでも使いようということなんだろうね。さあモンモランシー、すねてないで僕と踊ろう」 足早に去っていくギーシュとモンモランシー。 二人を見送りながらふと思う、もしかしたら自分は今、誰かと踊っていたのかもしれないと。 そんな他愛もないことを考えながら、ワインをあける。 今夜も月は確かに二つ輝いている。 一つのわけがないのに、二つ輝くこの空に、ルイズは言い知れぬ違和感を感じていた。 何かが、何かが足りない。 あるはずの、いるはずの何かが足りない。 月は二つ、静かに冷たく輝いている。 back / next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/918.html
back / next 六話 『鍛えるのは歯茎の間違いじゃあるまいか』 ミス・ロングビルに連れられて、五人が馬車の中にいる。馬車を引いているのはカツ丼だ。 「ミス・ヴァリエール、あのイノシシはあなたの使い魔ではありませんよね?」 「私のペットよ。かわいいでしょ?」 「かわいい? いかついってのが正解じゃない?」 「強そう」 「え~、かわいいですよぉ」 前のほうでカツ丼がほえる。 「ほら、カツ丼もかわいいがいいって」 「言ってるかしら?」 フゴフゴと鼻を鳴らしながらカツ丼が馬車を引く。 「もう少し言ったところに小屋があるらしいです。その中にいるとか」 「小屋、ですの?」 「小屋、ねえ」 森の入り口で馬車を折り、カツ丼には待機を命じる。 おのおのが杖を、シエスタはデルフを抜き、森の奥へと分け入った。 少し歩くと眼前にボロボロの小屋。 「あれですわ。あの中に入っていくのを見たとか」 「じゃあ誰が偵察に行く?」 「必要ないわ」 「へ?」 ルイズは無言でシエスタに手を向ける。 少し迷った後、シエスタはその手にデルフを乗せた。 腰のバックに入っていた長い紐をデルフの柄に結びつける。 「じゃあちょっと見てきて頂戴」 「娘っこよう、頼むから戦いに使ってくれえ」 「これもある意味戦いでしょ?」 そのまま肩に背負うと少し助走をつけて投擲、デルフは窓の中に飛び込んで何かに突き刺さった。 数秒後、紐を引っ張りデルフを手繰り寄せる。一緒に刺さっていた布切れらしきものを払いのける。 「で、誰かいた?」 「いんや、人っ子一人いねえどころかおめーら以外の気配もしねーよ」 「そう。獣の大筒らしきものは?」 「犬っぽい飾りの付いた筒みたいなのはあったぜ。でもそんなに大きくはなかったな。せいぜい肩に背負うくらい」 「それであってると思いますわ。宝物庫の整理のときにそんなデザインの筒を見たことがありますから」 「じゃあ当たりね。フーケはいないみたいだしさっさともって帰りましょう。キュルケ、タバサと一緒に取りに行ってくれる? 私はカツ丼のところで帰る用意をしてくるわ」 「オッケー」 ツカツカと歩みよりながら、それでも杖を構えたまま二人を見送ると、ルイズはロングビルに目を向けた。 「ミス・ロングビル、ちょっと思うところがあるの。意見をいただける?」 「は、はあ、何でしょうか?」 「あそこに獣の大筒があるみたいですけど、どうしてフーケは置いていったと思われます?」 「さあ、重かった、とか?」 「ありえないわ。肩に背負うくらいらしいし金で作りでもしない限りもっていけないはずはないわ」 「そう、ですわね」 「加えて持ち出さない理由が不明なのよ。国を出たほうが早いしここにとどまる意味はない、となるとフーケは目的があってあれを置いていったということ」 「そ、それで?」 ルイズはロングビルに一歩近づいた。 「多分使い方がわからなかったのね、だから教師を乗せようとした。違うかしら? ミス・ロングビル、いや、土くれのフーケ?」 思わず杖を取り出すロングビル、だがそれが振るわれるよりもルイズの手が肩をつかみシエスタがデルフリンガーをその首に添える方が早かった。 「……どこで気づいたんだい?」 「疑問の一つ目は学園長の部屋ね。片道四時間かかる場所への調査にしては早すぎたってこと」 「勘がいいねぇ。思わぬミスをするもんだ」 「あんたにとって教師が全員名乗りを上げなかったのは意外だったんじゃない?」 「ああ、あたしもあそこまで腰抜けばかりとは思ってなかったよ」 「ミスタ・コルベール当たりは何か考えがあったみたいだけど」 ククククク、と二人して笑みがこぼれる。 「もう一つはやっぱり潜伏していたってところね。普通ならそのまま国外に逃げたほうが安全だもの。体面があるから学園の国への通報は遅れるに決まってるし」 「ばればれだったのかい……」 「怪しかったからシエスタに見張ってもらったのよ。あなた誰も見てないと思って表情が出すぎよ?」 「次から気をつけるよ」 ルイズはゆっくりと手を離し、杖をフーケに向ける。 「で、わざわざこっそりやる理由は? あたしを突き出すだけならその剣で何とかするか魔法で何とかすればいい。用があるんだろ?」 「まあね、でもその前にと、シエスタ、フーケの服を全部はいで」 「ええ?」「んな!?」 「残らずね」 「そういう趣味なのかい?」 「馬鹿いわないの」 シエスタがフーケの服を下着まですべて脱がしている中、ルイズは脱がした服をバサバサとはたく。 ボロボロと飛び出す各種小物の中から、いくつかのものを引っ張り出した。 「杖が七本も。流石に実戦慣れしてる人は違うわね」 「他のやつがどうかしてるのさ。あたしらメイジは杖がなくなったら終わりだからね」 「確かにね」 取り上げた杖をすべて自分のマントに差し込む。 「もういいわ、着て頂戴」 「そうかい?」 ゆっくりと、フーケは下着を取り上げ足を通す。 「ああそうそう」 ひざまで上がったところでルイズが声をかけた。 「フーケ、その“中”に隠してある杖、使わないほうがいいわよ?」 「……気づかれていたとはねぇ」 ショーツを引き上げフーケは苦笑を浮かべた。 「で、あたしへの要求はなんだい?」 服をすべてまとい、フーケは問いかける。できるだけ自分に有利な条件を引き出すように。 「情報よ。あなたが目をつけるマジック・アイテムの情報が欲しい」 「マジック・アイテムの、かい?」 「ええ」 ルイズの後ろでシエスタがデルフを鞘にしまう。 「珍しい、聞いたこともないようなマジックアイテムの情報が欲しいの。私が欲しい種類のものなら譲ってもらいたいわけ」 「……盗賊に加担かい? それにそれじゃあたしは一方的に大損じゃないかさぁ」 「この状況でプラスを要求? 覚悟が決まってるわねぇ。ならもう一つ、使い方のわからないものを解析してあげるわ」 「そんなことができるのかい!?」 「マジックアイテムならね」 小屋からキュルケとタバサが筒らしきものを担いで帰ってくる。 「さあ行きましょうか“ミス・ロングビル”」 「ええ、“ミス・ヴァリエール”」 帰り道の馬車の中、キュルケは獣の大筒の包みを解く。 その中には真っ白な毛を植えつけられた長めの筒があった。先端は犬か狼のような装飾になっている。オマケのように小さな箱。 「コレが獣の大筒……」 「そんなに大きくないですね」 「貸して」 その筒を受け取り意識を集中する。頭に流れ込むさまざまな内容。 「へえ~」 「何かわかったの?」 ルイズはその白い筒を布でくるみなおす。 「これ銃ね。それもゲルマニアの鉄鋼技術でも足りないくらい高度の技術で作られた」 「この筒がぁ?」 「正確にはコレは銃身、発射機構の部分がどっかいって筒しかないから弾を撃つのは無理ね」 「……もしかして壊れてるの?」 「そ。しかもこの筒の部分魔法生物っぽいのよ。でも反応がまるでないってことは死んでるか止まってるか……どちらにせよその技術を再現できない限りガラクタね」 「この先の部分だけじゃ意味はなし、か」 オールド・オスマンの前、ルイズたちは並んで報告を行っていた。 「そうか、フーケは取り逃がしたか」 「はい、残念ですが」 「いやなに、コレが帰ってきたのなら文句はないわい。よう取り戻してくれた」 「かなり珍しいものかと思われますが」 「コレはワシの命の恩人の遺品での、この筒以外の部分は壊れてしまったんじゃよ」 「そうですか……」 「おおおお、そうじゃった。君たちにはそれぞれ勲章が与えられるでな、ミス・ロングビルとシエスタ君には特別報酬が出る」 「「「ありがとうございます!」」」「わ、わたくしもですか?」「私もですかぁ」 「うむ、今後もしっかり励むと良いぞ」 道すがら、ルイズは手の中の品を放り投げては受け取ることを繰り返している。横にはシエスタの姿。 その品は獣の大筒と一緒に収められていた箱の中に多数残されていたもの。かつて大筒があった世界において、それは“ショットシェル”と呼ばれていた。 「もうけものだわ。やっぱり課外授業はしっかり出ておくべきね」 「あの筒から何か?」 「ええ、それはもう」 ―まさかあの銃を作った場所に、悪魔の実を“物に食べさせる”技術があるなんて!― 『獣の大筒』、それはかのワンピースの存在する世界においては“散弾銃”と呼ばれた銃。 銃身に“イヌイヌの実・モデルレトリバー”を食わせた、とある海軍将校の愛銃であった。 「ところでルイズ、あのすごいブタちゃんの名前“カツ丼”だっけ? あれ由来は何?」 「シエスタの祖父の故郷のブタ料理の名前よ」 「……どおりでおいしそうな名前なのね」 悪魔の木の下に五人 三人の茶番劇のお茶会 二人の勝利の祝杯 ゆっくりとゆっくりと 悪魔の木は実を結ぶ “食らう”という現象を“喰らって” 悪魔の木は“喰らう”実を生らす back / next
https://w.atwiki.jp/anozero/pages/721.html
back / next 四話 『林檎を噛んで歯から血が出た』 ルイズは魔法が使えない。それは自他共に、特に自分では認めなくてはならない事実である。 正確には魔法がすべて爆発してしまうのだが。 ボムボムの実という爆発の象徴のようなものを引き当てて以来、ルイズは開き直ることに決めた。 とりあえず爆発は爆発として認識し、何故そうなるのかを考えるようになったのだ。 それにこの不思議なルーンは役に立つに違いない、そう考えながら。 「それに恩恵もあるといえばあるのよ」 「何ですか?」 シエスタが用意したサンドイッチをパクつきながら、ルイズは杖を持ち近くの小石へ向ける。 ポンッと軽い音が響き、石が消えてなくなった。 「実の恩恵だと思うけど、爆発なら制御できるようになったのよ。まあ壊すのにしか使えないけど」 「でも適当にはじけるよりはずっといいんじゃないでしょうか? あ、キュルケさんたちが来ましたよ」 視線の先にはキュルケとタバサを乗せたシルフィード。 タバサのほうはなにやら本を抱えている。 「ハーイルイズ、見つかったわよ」 「これ」 キュルケがルイズをその大きな胸で抱きかかえながらシエスタをにらみ、シエスタが対抗意識を向ける。 それをまったく気にも留めず、タバサはルイズに本を差し出した。 「何この本。『始祖の使い魔たち』ってこんなのに載ってるの? 私のルーンが」 「ここ」 それは確かにルイズの額にかかれたルーンだった。 その使い魔の名は『ミョズニトニルン』、神の頭脳とまで言われる伝説の使い魔のルーン。 「触れたマジックアイテムのあらゆる情報を読み取る、ね」 「なーる。だからあんた鑑定ができたのね」 ルイズの頭を撫でながらキュルケがうなずく。シエスタさん、そんなににらまないで。 ルイズはキュルケを跳ね除けたりはしなくなった。 理由はまさに今自分が頭をうずめているものだ。 そう、それは胸、それは巨乳。 魔法の練習で疲れ果ててシエスタの胸に頭をうずめて休んだことを思い出す。 程よいやわらかさで今まで使ったあらゆる枕よりも寝心地がいい。 ルイズは己の頭を挟んでいる肉の塊をじっと見つめた。 アレはいい物だ。 使い魔のルーンに関する本を開く。 キュルケを通してタバサにルーンの検索を頼んだときに一緒に探してもらったコモン・サーヴァントについての本。 ルーンを刻むことでの恩恵は大きく分けて三つ。 一つ目は使い魔の主への好意のすり込み、二つ目は主との意思の疎通、三つ目は場合によってはそのほかの何か。 三つ目は場合によっては使い魔が人語を話すようになる、といった特殊なものである。 おそらくは自分のこれもそういう特殊効果、って物なのだろう。 そんなことを考えながらルイズは額に触れる。 そしてなるほど、とその本を閉じる。 なぜ自分はこんなにポジティブなのか、その理由に思い当たったからだ。 ルーンは主への好意を使い魔に少しずつすり込んでいく。 今現状は自分が主兼使い魔。 つまり自分は、自分自身への好意を自分自身へすり込んでいるのだ。 自虐に走らなくなった理由の検討がつき、ルイズは一人苦笑した。 もう一度『始祖の使い魔たち』の本を開く。 「ガンダールヴがあらゆる武器を、ヴィンダールヴはあらゆる幻獣を、ミョズニトニルンはあらゆる魔法道具を支配する、か」 「すごいわねぇ」 「便利」 「二つ目は何か憧れますね」 ふと、ルイズはそれを読み直す。 「てかこれさ、どれも人間じゃないと、少なくとも亜人じゃないと活用しようがない効果じゃない?」 沈黙が四人を包んだ。 「ブリミルの使い魔は皆人間か亜人ってこと?」 「でもブリミル様はエルフと戦ったんですよね? じゃあエルフのわけはありませんし……」 「他の亜人は凶暴」 「……人間しか残ってないじゃない」 再び四人を沈黙が覆う。 「娘っこよ、そいつら呼んだのはそれだけじゃねえだろ?」 ありがとうデルフ! と流れを断ち切ってくれたデルフに心の中で礼を言いながら、ルイズは立ち上がった。 「そそそそそうね! キュルケ、ちょっとついてきて。シエスタ、先に行ってもう一個のほうも用意」 「はい!」 デルフを担いでかけていくシエスタを目で追いながら、キュルケたちはルイズに続く。 「もう一つの用のほうよね?」 「ええ。かなり便利なものなのよね」 大きな木がそこにはあった。 五メイルくらいだろうか、おどろおどろしい印象を受ける実がいくつかなっている。 見るとはしごをかけたシエスタがその実のうちのいくつかを採取していた。 「ねえルイズ、この木ってもしかしてあの実?」 「そうだけど?」 「いくらなんでも成長が早すぎるわよ」 「そういう種類なの。シエスタ!」 「あ、はい。小屋に用意してあります」 「アリガト。回収し終わったら飲み物用意して」 「はーい」 「シエスタよう、俺は剣なんだ、高枝切りバサミじゃないんだ、ねえ聞いてる?」 木の管理のためだろう、備え付けられた小屋の中は以外にも明るい光を放っていた。 上を見ると巻貝のようなものが光を放っている。 「……タバサ、あれ」 「この前の貝」 「二人とも、こっち」 大きめの机の上にいくつもの貝殻が並んでいる。 どうやら種類ごとに分けられているらしく、半分くらいはきれいに磨かれている。 「いい、見ててね」 ルイズはそのうちのひとつを拾い上げ、とがっている部分を押し込む。 ゴウッ、と真っ赤な今まで燃えていたような火炎を噴出す。 「今の、何?」 「この貝、“ダイアル”って言うんだけどね、特定のものを蓄えることができるのよ。これは炎、これは水、こっちは音ね」 「もしかして上の明かりもそうなの?」 「あれは光ね」 そういうとその炎を出し切った貝をキュルケに手渡した。 「してほしいのはこれ。魔法を封じれるかどうかよ」 「……ルイズ、協力はするからひとつだけいい?」 「何?」 「どうしてわざわざ呼び出してこっそり?」 ルイズは突然貝を置き、二人の肩をつかむ。シューシューと手のひらが音を立てる。 「これは私の成果、私の発見よ。たとえルーンのおかげであったとしても」 暗い。明かりがあるのにルイズの顔が暗い。ガタンと音がして恐る恐る振り返ると抜き身のデルフリンガーを構えたシエスタ。 「だから私のものなの。わかる? ミスタ・コルベールとかに教えたら適当に触れ回っちゃうでしょ? ね?」 「そそそそそそそうね」 「あなたたちなら漏らしたりしないだろうし教えてもいいかなって思ったの。もらしたりしないわよね? ねぇえ?」 ルイズの目が真っ赤に光る。後ろでさびを落とされたデルフリンガーがギラリと光る。 「ももももちろんよ! ねえタバサ!」 「(コクコクコクコク)」 その返答を聞いてるルイズは手を離す。後ろでシエスタがデルフを鞘に収める。 「じゃあお願いねキュルケ」 結局ダイアルは魔法の炎すらそのうちに溜め込んだ。 その夜キュルケとタバサはいつもより多くの下着を洗濯したという。 小屋の中にいくつかの悪魔の実が並んでいる。 映像(ビジョン)貝が記録されている映像を流している。 それに写っていたのは悪魔の実が熟すまでの記録。 ただの小さなつぼみに本当に小さな実がついている。 しばらくそのままだったそれが何かに影響されたのかびくりと震える。 目に見える形で大きくなっていきバナナの形を取る。 そして木から禍々しい何かが注ぎ込まれ表面に唐草模様を描いた。 そして動きがなくなる。 「うはあ~何か怖いですねぇ」 「でも成長要因がわからないのよ」 そう言って並べてある実を一個ずつ触る。 「これは“イヌイヌの実”、こっちは“ウマウマの実”、こっちは“トリトリの実”、これはあろうことか“ヒトヒトの実”」 「うはあ、見事に動物ばっかりですねぇ。ゾオン系でしたっけ?」 「私がほしいのはロギア(自然)系、せめてパラミシア(超人)系よ? どうしてゾオン系ばかりなのかしら」 「ミョズニトニルンの能力で育て方はわかってるはずなんですよね?」 「“悪魔の木の育て方”はね」 ふう、とため息をつく。 「駄目なのよ。実の育て方がわからないのよ」 「困りましたねぇ」 ふと、シエスタは棚を見る。 そこに並んでいるのはコルベール謹製『しびれる蛇君試作二号』と『燃えるぜ蛇君試作三号』 「あれは使わないんですか?」 「作ってもらったはいいけどわからなくなったのよ。電気を流せばいいのはわかってるのよ。でもどこに? どうやって? 生き物から情報を引き出すのは限界があるのよ」 「でもボムボムの実の詳細は引き出せたんですよねぇ?」 「食べたからね。自分の能力になってるからわかるのよ」 「……埒が明きませんねぇ」 結局何もわからぬまま、実の談義は終了と相成った。 空はどんよりと曇り始め、小雨が降り始める。 「いけない! 戻りましょう、ルイズ様」 「そうね」 夜、雷鳴がとどろき豪雨が降る。 窓が風にがたがた揺れ使い魔たちもおとなしくうずくまっている。 雷が輝き直後に雷鳴がとどろく。近い場所で落ちた証拠だ。 雷がひとつ、悪魔の木に落ちる。 余波がパリパリと木を覆い、熱量に負けて炎が吹き上がる。 燃え上がるかと思った瞬間、電撃と炎が写真のように停止する。 そしてそれがまるで木に吸い込まれるように消滅した。 雷で焦げた痕跡も炎で燃えていた痕跡も残っている。 ゆっくりと、悪魔の実が二つ膨らんでいった。 back / next